日本の文字を書く豊かさ( 2 )(2025年9月号)

 今日の世界各地で用いられている文字体系は、漢字体系とアルファベット体系、それに若干の独立的体系に大別されます。中国で生まれた漢字体系を除き、象形文字として誕生した数々の古代文字は現在使われなくなっています。
 紀元前一三〇〇年前後から使われ始めたという甲こうこ骨つ 文字は、現在の漢字と形が違うだけで、文字としての使用の仕方はほとんど同じです。漢字はその基本的なシステムを変えずに、今日も、世界中で何億という人々が使用しています。
このように三千年以上も前に書かれた文章が、文字の書体を置き変えるだけで現代でも容易に解読が可能なのは世界でも漢字だけなのです。
 一方、アルファベット体系は、古代エジプト文字の影響を受けて成立したとされます。現代でも使われているものとしてはアラビア文字、モンゴル文字、エチオピア文字もこのアルファベット体系の中にあります。アルファベット体系の優れた点は、その文字の少なさにあります。それを横に並べて「語」を作り、同時にその語の中に表音的な要素を加える点です。
 脳の失患の研究によると、アルファベットを使う人と漢字を使う人では異なる症状を呈することがあり、文字を使いこなす脳内経路がアルファベットと漢字では違うと考えられています。漢字はアルファベットから見たら象形性の残る古風な文字と写ることもありますが、見方を変えれば、空間の複雑な構築性という脳の働きを伴いながら、同時に言語活動という高次な脳の活動が期待出来るわけです。
 最近アルファベット圏の人々の間では漢字が人気と聞きます。英語なら「I」としか書けない「自分」が、「我」と表現されるところなどに魅力を感じるそうです。日本の文字は漢字と仮名を交ぜ書きします。この「表語文字」と「表音文字」の交ぜ書き体系は、古代エジプトの文字であるヒエログリフと似ており、これも興味深いところです。自らの思考を深め、創造性溢れる活力のある社会を築こうとするのなら「書」をすることは非常に頼もしい相棒になること間違いないでしょう。