絵文字と六書(りくしょ)(2025年10月号)

 中国で漢字の祖先である甲骨文字が使われ始めたのは、今から三千五百年程前です。それより前も、メソポタミアの楔くさびがた形文字は、今から五千年程前に使われ始めていました。楔形文字の原形とされるアラム文字(古拙文字)は、物の形を象かたどったいわゆる絵文字です。アラム文字の頃は、単語を羅列したに過ぎないごく短い文でしかありませんでした。
 この最古の文字は、現在我々が使っている漢字と非常に似ている点があります。お椀を三つ逆さまにして「山」を表す「象形」。顔の絵にパンを描いて「食べる」を表す「会意」。線の交叉によって「敵」「他人の」「別の」を表す「指示」。意符の卵と音符の「ギグ」で「小麦」を表す「形成」。納屋を表す「が」の音を転用して「置く」「作る」とする「仮借」。原意の「太陽」から「白い」「清い」などへ転用する「転注」といった文の構成法です。この構成法は漢字では六書(りくしょ) といいます。漢字より千五百年も昔なので、このアラム文字が甲骨文字のヒントになったのではないかと考えたくなりますが、甲骨文字が使われ始めた頃、既にアラム文字は楔形の文字になっており、また地理的にも隔絶されているため、甲骨文字は、アラム文字とは別に発生したと考えることが妥当でしょう。
 人類は、文字を発明し、これをどう使いこなしていこうかと考えた末、それは六書という智恵に行き着きました。人に備わる思考の普遍性を感じると同時に、今の文明を生み出した、この文字について考えなくてはならない時期が到来していると思います。この文字に取り組み、輝かしい軌跡を描いてきた方々のお名前が今月号では掲載されています。文字を手書きすることは、未来を拓くために非常に大切なことであるはずです。皆様の益々のご活躍を心より祈念しております。